日本AGI基盤(NAGI)構想
National AGI Infrastructure (NAGI)
AIアライメントネットワーク(ALIGN)は、「AIと人類の希望ある未来」を目指す非営利・独立系の研究ネットワークです。
ALIGNは、2025年10月より、不確実さを増すAGI時代に向けた政策提言として日本AGI基盤構想(National AGI Infrastructure; NAGI構想)をとりまとめ、日本政府に向けて提案しています。
本ページは構想の概要と主要論点を整理した入口です。詳細な設計、想定問答、経済損失の試算、実施体制については、提言書をご覧ください。
(2026年7月22日、第三版の改訂版v3.1.0を公開しました)
NAGI構想の概要
本構想におけるAGIとは、産業と経済に根本的な構造変化を起こし得るフロンティアAI能力の総称です。ここでいうフロンティアAIとは、その時点での最先端に近く、産業、行政、研究、安全保障に大きな影響を持ちうるAIを指します。最近の研究で、AIがこのような能力を獲得する時期は想定より前倒しになる可能性が指摘されています。
ここで問われるのは、国内の企業・研究機関・行政機関・利用者がAIを「使える」かだけではありません。問われるのは、今後の社会で不可欠の基盤となるAIを、国内で学習し、性能と危険能力を評価し、運用条件を決め、継続的に改善できるかです。海外企業のサービスやAPIは重要な選択肢ですが、それだけでは価格、利用条件、供給安定性、安全評価の基準を外部の判断に委ねることになります。
NAGI構想は、フロンティアAIの学習に必要な大規模計算資源を、安定電源、評価・監査制度、運用人材と一体で国内に整える提言です。この背景には、フロンティアAI開発で先行する少数の国・企業、とくに米国・中国との差が、研究力だけでなく、学習用計算資源と電源への投資規模の差として現れているという分析があります。現代のフロンティアAI開発では、計算力とそれを支える電源が、企業、人材、評価ノウハウ、応用先を引き寄せる基盤になります。NAGIは、このボトルネックを解消するため、安定電源と一体でギガスケールの計算基盤である「知能プラント」を段階的に整備し、国内の企業や研究機関がフロンティアAI学習用の計算資源を国際水準に比して安価かつ潤沢に利用できる状況をつくることを提案します。それにより、日本国内のプレイヤーがフロンティアAI開発能力を保持できる状態を目指します。
NAGIは、日本の経済安全保障と産業基盤に関する提言であると同時に、AIが人類社会に及ぼすリスクを下げるための国際貢献にもつながります。米中を中心とする二極にフロンティアAI開発能力が過度に集中すると、相手に先んじようとする圧力から、安全性の検証や監査が後回しになりやすくなります。これはAIアライメントの観点からも警戒すべき構造的リスクです。日本が第三極として独自にフロンティアAIの学習・評価・運用能力を持つことは、安全評価、監査、公共応用、国際連携の網を広げ、対立か従属に傾きやすい二極構造に媒介と連携の余地を生みます。本構想の目的は、日本が新たな覇権主体となることではありません。日本が自国の自律性を守ることと、AGI時代の安全評価・制度設計において国際的な結節点となることが、同じ手段で重なる点に、ALIGNが日本政府にNAGI構想を提言する理由があります。
要点
問題意識
AIが社会基盤となる時代に、開発能力の集中、外部依存、安全評価の空洞化をどう緩和するか
政策上の位置づけ
産業政策を機能させる前提としての、経済安全保障上の基盤整備
中核的な政策目標
AGIの開発・運用能力を制度設計レベルで担保できる国としての地位を確立すること
政策の設計原理
国として結集すべき「基盤層」(計算基盤の供給)と、多様性と競争に委ねるべき「開発層」(モデル開発)を区別する「二層原則」
何をつくるか
国内の企業・研究機関が、学習用計算資源を国際的に競争可能な条件で利用できる「状況」
この「状況」を成立させるための、電源一体型のギガワット級データセンターの段階的整備
NAGIがつくらないもの
特定のAIモデル
国営AI企業
フロンティアAI能力の無制限な拡散
人類規模の意義
米中を中心とする二極構造に、安全評価・監査・公共応用を担う第三極を加え、国際連携の網を広げる
これがなぜ日本に必要か
AIの社会実装が進むほど、問題は「どのサービスを使うか」だけではなくなります。行政、産業、研究、安全保障でAIが基盤技術になる場合、その能力を検証し、必要に応じて改善し、停止や制限を含む運用判断を行えることが重要になります。
AI政策には二つの層があります。一つは、AIをどう使い、産業応用・社会実装・人材育成につなげるかという産業政策の層です。もう一つは、その前提として、AIを自国で学習・評価・運用・改善し続けられる能力を失わないための経済安全保障の層です。NAGIは後者を担う構想であり、産業政策を否定するものではありません。
産業革命期には、資金を投じて機械を輸入し、工場を建てること自体は多くの国に可能でした。しかし、自国で技術を改良し、人材を育て、産業構造に組み込む能力を持てなかった国は、結局は先行国に経済的に従属せざるをえませんでした。日本は明治維新を通じて、かろうじてその能力を獲得し、先進国の地位を確立しました。しかし、産業革命よりも大きな分岐を生む可能性があるAGI技術の出現期に、同じ地位を維持できることは自動的には保証されません。AGI時代にも、AIサービスを利用できることと、国内で改良ループを持つことは別です。国の役割は特定の勝者を選ぶことではなく、計算資源が国際的に競争可能な条件で供給される「状況」を整えることです。
日本がフロンティアAIの開発・学習・運用能力を継続保有しない場合の経済的リスクは、依存、遮断、取り残しの三つの経路に分けて考えられます。これらは単純に足し合わせる数字ではありませんが、依存によるレントの海外流出は年6.6兆〜25.5兆円、危機時のAIサービスの遮断が発生した場合3か月の遮断で2.4兆〜7.1兆円、長期の経済成長取り残しリスクが顕在化した場合は10年で32.9兆〜179.9兆円、20年で67.4兆〜410.2兆円の規模となりうると試算されています。これらの数字の算出根拠の考え方は、提言書の付録1で整理しています。
これがなぜ世界に必要か
AGI技術は大きな有用性を持つ一方で、誤用や暴走、危険能力の拡散といったリスクも伴います。そのため、すでにフロンティアAIの開発能力を持つ国は、他国が制度設計レベルで安全に開発・運用できるかを容易には信用できず、技術の拡散に消極的な態度をとる可能性があります。
いったんその枠組みが固定化されれば、フロンティアAIを学習・評価・運用できる国だけが、安全基準、利用条件、国際連携の設計に実質的に参加できる構造が生まれかねません。事実上の「AGI保有国クラブ」が形成されれば、後から参入する余地は狭くなります。日本が第三極として加わるための時間的猶予は、一般に想定されるより短い可能性があります。
ここで必要なのは、開発能力を無制限に拡散させることではありません。危険なフロンティア能力は厳格に統制しつつ、公共的応用、制度、安全評価、監査、国際連携を複数の主体に広げることです。能力と制度が相互に検証し合うこの網が、ここでいうAI生態系です。
その中でNAGIが想定する第三極は、米国・中国に並ぶもう一つの覇権主体ではありません。制度、安全評価、監査、公共的能力を供給し、対立か従属に傾きやすい二極構造に媒介と連携の余地を導入する、自律的な結節点です。
日本が第三極として加わることは、APIや計算アクセスへの過度な依存を避けるという日本自身の経済安全保障に資します。同時に、安全評価や監査の制度を国際的に共有し、他の国・地域へと広がる相互依存の網を立ち上げる初期条件にもなります。NAGI構想の要点は、この二つの目的が同じ手段で重なることにあります。
何をつくるか
NAGIが整えるべきは、特定のAIモデル、企業、研究課題、応用分野を選ぶ仕組みではありません。国内の大学・企業・研究機関が、フロンティアAIを学習・評価・運用するための計算資源を国際水準に比して潤沢かつ安価に使える「状況」です。具体策として、安定電源と一体でギガワット級の「知能プラント」を段階的に整備し、既存基盤と役割分担しながら、評価・監査制度と運用人材を組み合わせた共通基盤として運用します。
運営については、既存の補助金・委託研究の延長としてではなく、経済安全保障上の戦略インフラとして設計する必要があります。政府が政策目的と安全保障上の統制を担保しつつ、官民ファンド等を通じて独立した事業主体を設け、予算執行、調達、資源配賦、工程管理の責任を一元化する方式が想定されます。KPIや配賦ルールは、短期的な収益性、採択件数、論文数、個別分野の振興ではなく、国内でフロンティア学習を継続できる能力、計算単価、供給安定性、安全評価能力に整合させるべきです。
なお、NAGIは特定のAIモデルを開発する計画でも、国営AI企業の設立提案でも、フロンティアAI能力を無制限に拡散する構想でもありません。
代表的な論点
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NAGIは、国が特定のAIモデルを開発する計画ではありません。国内の企業・大学・研究機関が、フロンティアAIの学習を実行できる大規模計算基盤を整える構想です。
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段階的投資、継続条件、独立した評価が前提です。仮にAGI到達が遅れた場合でも、計算基盤、電源、人材、安全評価の蓄積は、AI産業基盤として機能します。
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データやアルゴリズムも重要ですが、フロンティアAIの学習を実行するには、大規模な計算資源と安定電源が不可欠です。NAGIは、データやアルゴリズムを軽視するものではなく、それらを国内で生かすための基盤条件を整える構想です。
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重要なのは、世界単独首位ではなく、対象業務に必要な性能を満たし、競争可能なトップ集団から脱落しないことです。NAGIは特定モデルを作る構想ではありませんが、その上で学習されるモデルに最終需要がなければ計算需要も生じません。同じ最上位群にあるモデルでも、価格、速度、機密性、国内データ管理、更新可能性、供給継続性などで使い分けられます。
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国内モデルへの需要があることと、NAGI規模の計算基盤が必要であることは同じではありません。海外API、オープンウェイトモデルの追加学習、ABCI・富岳NEXT・国内民間クラウドで代替できる案件は、NAGIの確定需要には算入しません。対象は、既存手段では同等の規模・期間・統制条件で実行できないフロンティア学習案件です。
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足りる場合はあります。問題は、国内の開発主体が必要な時期に、必要な規模のGPUを、一定期間連続して確保できるかです。既存手段が同等の規模、連続予約、機密性、国内統制、優先配賦、価格予見性を提供できるなら、NAGIの規模と公的関与は縮小できます。
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特化型AIやフィジカルAIは重要です。ただし、その前提となるフロンティアAIの学習・評価・運用能力を失えば、特化型AIも外部基盤に依存します。
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同盟は重要ですが、技術的・制度的な自律性を代替しません。APIアクセスは購入できても、開発能力、安全評価能力、運用条件への介入能力は購入できません。
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基盤がないから人材、企業、需要が育ちにくい、という因果もあります。NAGIは特定企業を選ぶのではなく、大学・企業・研究機関が挑戦できる計算資源の条件を整える構想です。
より網羅的な想定問答は、提言書の付録2で整理しています。
関心別の入口
政策・行政関係者、産業界・研究機関の方へ
まず本ページの要点、次に提言書本文をご覧ください。
ALIGNコミュニティーの皆さんへ
構想公開の背景とALIGNとしての問題意識は、解説記事「NAGI構想第二版の公開にあたって」にまとめています。
技術的背景を知りたい方へ
下記ブログ記事群、特に「Transformer から AGI へ」および「AIと熱力学的限界」を参照してください。
資料集
提言文書
日本AGI基盤(NAGI)構想 提言書最新版 v3.1.0 (2026年7月22日公開)
v3.1.0の主な改訂:二層原則(基盤層と開発層の区別)の政策の設計原理としての定式化/フェーズゲート・転換条項など財政規律の強化/経済的リスク試算の感度分析(付録3)と残余需要・代替供給台帳(付録4)の新設/FRONTiaプロジェクト始動後の現況への全文整合。
日本AGI基盤(NAGI)構想 提言書 v3.0.0 (2026年7月13日公開)
日本AGI基盤(NAGI)構想 提言書 v2.0.1 (2026年4月16日公開)
NAGI構想 第一版(2025年10月、関係者限定公開)
スライド資料
関連ブログ記事
TransformerはAGIに到達できるか? (AGIの理論、AGIと社会、そして日本の選択 :パート1)
スケーリング競争の先にあるAGIと局在リスク (AGIの理論、AGIと社会、そして日本の選択 :パート2)
AGI時代の日本の役割 (AGIの理論、AGIと社会、そして日本の選択 :パート3)
関連書籍
高橋恒一『AGI 人間を超える知能は文明をいかに変容させるか』講談社選書メチエ、2026年8月10日発売。
引用方法
NAGI構想を学術文献・記事等で参照する場合、以下の形式を推奨します。
AIアライメントネットワーク(ALIGN)「日本AGI基盤(NAGI)構想」
特定の版を参照する場合:
AIアライメントネットワーク(ALIGN)(2026)「日本AGI基盤(NAGI)構想 第三版 (ver 3.1.0)」 2026年7月22日公開
提言書は、クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際(CC BY 4.0)ライセンスで公開しています。出典(書名およびALIGN)と原本の所在(本ページ)を明示すれば、転載・翻訳・引用は自由です。
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